畜産

第1回 牛とカルシウム(乳牛編)[1]

2025.11.20

  • #カルシウム
  • #牛
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~分娩性低カルシウム血症について~

分娩性低カルシウム血症(乳熱)は、分娩後に急激なカルシウム流出が起こることで発症します。食欲減退、興奮状態、起立不能等の症状が見られ、昏睡に至ることもある怖い病気です。さらに、この状態をきっかけにケトーシス、第4胃変位、乳房炎など他の疾病を併発することもあります。では、なぜカルシウムが低下するのでしょうか?

図 : 分娩直後から24時間までのCa濃度推移

出産間近の母牛は、胎盤を通じて1日あたり約18gのカルシウムを胎児に与えています。分娩後には泌乳1kg(乳脂率約4%)に3g以上のカルシウムを流出します。結果、著しいカルシウムの低下が見られその後、徐々に回復していくのです。

カルシウムに対する調整能力は、加齢に伴って低下していきます。飼料から吸収できる割合もその一つで不足した分は、骨に貯蔵されているものを使って補おうとします。しかし、蓄積されたものも限界がありカルシウム不足の状態に陥ってしまうのです。 

高カルシウムの飼料を与えている場合、体内では貯蔵する為に即効性のホルモン(カルシトニン)が分泌されます。この状態で分娩すると大量のカルシウムを流出しているにもかかわらず、貯蔵しようとします。その結果、血中へ移行させる遅効性の上皮小体ホルモンが働き出す間、一時的にカルシウム不足に陥ってしまいます。

胎児の成長に併せ内臓が圧迫され、消化機能が落ちやすくなります。また、濃厚飼料やサイレージ等、消化しやすい飼料を多く摂取することにより、ルーメン(第1胃)内が酸性に傾き、そのうえカルシウムが不足すると筋肉の伸縮が鈍くなり、消化・吸収率が低下してしまうのです。

体内にあるイオンは陽イオン(+:カチオン)と陰イオン(-:アニオン)に分かれています。カルシウムは陽イオンですので、体内にマグネシウムや窒素等、陽イオンが多過ぎると、吸収されにくくなります。また、窒素の多い粗飼料の給与は、陽イオン過剰の一因となります。